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大阪高等裁判所 昭和39年(行コ)17号 判決

控訴人 中谷新

被控訴人 国

訴訟代理人 堀川嘉夫 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一、先ず訴訟手続違背の主張について判断する。

本件記録及び本件関係の裁判官忌避事件の記録を調査すると、原告代理人が昭和三八年一月一七日の本件原審最終口頭弁論期日において(控訴状に昭和三八年二月二八日と記載せるは誤記と認める)、裁判長裁判官前田覚郎、裁判官平田浩、裁判官野田殷稔に対し忌避の申立をしたこと、これに対し右三裁判官をもつて構成する原審は、右申立は忌避権を濫用した不適法な申立であるとして、民事訴訟法第四〇条の適用がないとの見解の下に同年一二月二四日自ら申立却下の決定をなし、昭和三九年一月一八日その決定正本を原告代理人に送達するとともに、本件の判決言渡期日を同月三一日午後一時と定め、原告代理にその呼出状を送達したこと、原告代理人は同月二二日右却下決定に対し即時抗告の申立をなすとともに、右判決言渡期日の指定及び呼出をもつて、民事訴訟法第四二条本文に違背し、右忌避申立の決定に対する即時抗告を阻止せんとする不当の目的に出でたものであるとして、前示三裁判官に対し再度忌避の申立をなしたが、原審は同月二七日、この二度目の忌避申立も忌避権を濫用した不適法な申出であるとして自ら却下し、同月三一日午後一時原判決の言渡をしたこと、原告代理人は右却下決定に対しても即時抗告を申立てたが、右二個の抗告はいづれも、同年二月二一日大阪高等裁判所において「既に判決の言渡があつた以上、抗告人の忌避申立は現在においてはその理由を失つたことに帰着し、抗告人は忌避申立を維持する利益がない。」として抗告を却下されたことを認めることができる。右経過によれば、原判決は原告のなした忌避申立の裁判確定前に言渡されたものであることが明らかであるから、それが訴訟手続上適法な忌避申立である限り、原審の訴訟手続は民事訴訟法第四二条本文の規定に違背し瑕疵があつたものと言わねばならない。しかし右忌避が適法に申立てられたとしても、後に右忌避申立が実体上理由のないものであることが、忌避申立事件における裁判によつて確定され、または原判決に対する上訴審の裁判において判断された場合には、結局原審の訴訟手続の瑕疵は治癒されるに至るものと解するのが相当であるところ、前示忌避申立事件の裁判は、抗告審において前掲理由により抗告を却下し、忌避申立理由の有無については抗告審の判断がなされないままに原決定が形式的に確定しているので以下原告(控訴人)の申立てた前掲各忌避申立の理由の有無について考えるに、右忌避申立事件の記録によれば、昭和三八年一月一七日原告代理人がなした忌避の理由は(原告代理人は右同日の原審口頭弁論期日において、裁判所の構成変更弁論更新の機に、準備書面に基いて新たな請求趣旨を陳述し、同時にその理由と新たなる買収手続無効の主張をなすため弁論の続行を求め、これに対し被告代理人は請求棄却を求め、結審を求めたところ、裁判所は更新後の証拠調に入らず、かつまた右続行立については何らの決定を下さずして突如結審を宣告したので、原告代理人は先づ裁判長の訴訟指揮に対し異議の申立をしたが、旧例に従い決定を下さなかつたので「裁判官全員に対し忌避の申立をなした。本件に関し原告が主張する主要論点は、買収手続の無効と本件土地は農地に非ず、小作地に非ずとの二点であるが、被告より手続有効の立証が不備であり、特に原告は本件土地は農地に非ず、小作地に非ずと強訴するものであるに拘らず、前記期日においても何ら被告より立証をなさない。以上の次第で、前示三裁判官は適法なる更新をなさず、原告の請求趣旨更正事由中に主張する事実に付ては被告の答弁を促さず、即ち原告の新請求趣旨自体のみにて訴の却下乃至請求棄却の裁判を下さんとする合議を懐中して法廷に臨み、叙上審理現象を生じたるもの、しかも原告の最終弁論を聴かずして、不公平、偏頗の裁判を下す状態を現出した。よつて忌避申立を敢てした次第である」というにあるけれども、昭和三八年一月一七日の原審口頭弁論調書によれば、適法に弁論の更新その他の訴訟手続が行われていること明らかであり、また原審口頭弁論の全趣旨によれば、原審が原告代理人の弁論続行の申立を許容せずして結審したのは、本件訴訟が昭和二五年七月二一日の訴提起以来昭和三八年一月一七日の弁論終結の日まで一二年余を経過し、その間原告代理人において再三裁判長から買収処分等の無効事由の具体的主張の釈明を命ぜられながら遂にこれを明らかにしなかつたため、訴訟の徒らな遅延防止の見地から本件についてはもはや弁論続行の必要なく、裁判をなすを相当と認めて結審したものであることが明らかで、原審三裁判官が原告に対し不公平、偏頗の裁判をなさんとの予断を抱いていたものと認むべき事情は片鱗も見出しえない。却つて原告代理人は、忌避の申立をなすべき何等の客観的合理的事由がないのに訴訟遅延の目的のみをもつていわれのない忌避申立をしたものであることが原審口頭弁論の経過に徴し明らかであるから、原告の第一同目の忌避申立は理由がなく、また第二回目の忌避申立も、その原因として主張するところは原審の訴訟手続違背であつて、それだけでは忌避事由とならないから、この申立も理由がない。そうすると前掲原審訴訟手続の瑕疵は治癒されたものと認めなければならない。なお控訴人は、原判決には口頭弁論終結未了の審理状態において判決がなされた違法が存する旨主張するけれども、本件記録によれば、原判決は昭和三八年一月一七日に終結した口頭弁論に基いて適法になされたものであることが明らかで、右主張は控訴代理人の独自の見解にすぎず採用しえない。よつて原判決に訴訟手続の違背があることを理由として本件を原審へ差戻を求める控訴人の申立は理由がない。

二、そこで本件訴について判断する。

(一)  本案前の判断

(イ)  自創法は、買収計画、買収処分(買収令書の交付)、売渡計画、売渡処分(売渡通知書の交付)等の個々の行政処分のほかに、控訴人主張の様な政府買収(農林省各義の所有権取得)、政府売渡(農林省よりの所有権移転)を独立の行政処分と認めているとは解せられないのみならず、故らかかる既念を構成してその無効確認を求める利益もないから、控訴人主張の如き政府買収、政府売渡の無効確認を求める訴は不適法である。

(ロ)  買収、売渡による登記嘱託行為は行政庁内部間の行為であつて、それ自体直接外部に対して効力を生ずる行政処分ではないから、これに対する無効確認の訴は不適法である。

(ハ)  登記が無効な場合はその抹消を求むべきであり、その無効確認を求める訴は救済の直接、実効性を欠き不適法である。

(ニ)  買収、売渡処分が無効と判決された場合、知事が買収売渡による各登記の抹消手続をなすについては、別段国の容認を必要としないから、右容認を求める訴はその利益を欠き不適法である。

(ホ)  所有権の回復を求める訴は、如何なる給付義務の履行を求めるものであるか不明確であるのみならず、所有権確認、移転ないし抹消登記手続請求のほかに右の様な請求を認むべき利益も存しないから、右訴は不適法である。

(ヘ)  原判決添付物件表(30)、(31)の土地については、買収計画、買収処分のなされた事実を認めうる証拠がないから、右土地についての所有権確認を求める訴はその利益を欠き不適法である。

(ト)  よつて控訴人の本件訴中、原判決添付物件表(1) ないし(29)記載の土地についての所有権確認を求める訴を除き、その余の訴はすべて不適法として却下すべきものである。

(二)  本案の判断

先ず控訴人の主張する買収処分の無効原因中、実体上の違法に関する控訴人の主張についての判断は、原判決理由中これに該当する記載と同一であるからこれを引用する。

更に、手続上の無効に関する控訴人の主張について判断すると、行政処分の無効原因を主張するには単に抽象的に当該処分に重大かつ明白な瑕疵があると、主張するだけでは足りず、具体的事実に基いて無効原因を主張すべきであるのに、手続上の無効に関する控訴人の主張は抽象的で具体性がないからその主張自体失当である。

従つて、前記(1) ないし(29)の土地に対する買収処分の無効を前提とする控訴人の所有権確認請求は理由がなく棄却すべきである。

三、よつて原判決を相当とし、控訴は理由なしとして棄却すべきものと認め、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡垣久晃 宮川稲一郎 奥村正策)

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